教育長室から
No.8 居場所を探す子どもたち
教育長室からNo.8
居場所を探す子どもたち
近江八幡市教育長 大喜多 悦子
私は教育長に就任する前、30年余り中学校教員として勤めました。いろんな子と出会ってきました。思春期真っ只中の中学生は、自立と依存の葛藤の中に生きています。毎回授業後に、今読んでいる漫画や好きなことを話しにきてくれる女子たち、廊下で出会うと話が終わらず、私が職員室に戻る時にも隣で歩きながら部活のことを話してくれる男子。知らない世界に誘ってくれる子どもたちとの会話はわたしにとって楽しいひとときでしたが、これは子どもたちの「私を知ってほしい、聞いてほしい」のメッセージです。一方で、勉強にやる気をなくす、やりたくないことをしない、集団行動ができない、授業をエスケープする子たちの反発や自己主張に苦慮したことも多いです。今でも心に残っているのは、1年生7月頃からエスケープを始めた女子グループのことです。2年生になっても、教科によっては授業に出ず、数人が廊下に出ている状態。ある時他の教員と見回っていたところ、彼女たちがエスケープして空き教室に入って遊んでいました。授業に戻るよう指導しましたが、一向に動く気配がありません。これはもうしょうがない、この機会にゆっくり話をしようと腰を落ちつけました。最初はとりとめもない話でしたが、ある子が「わたし、高校は行きたい・・・。親も高校は行った方がいいと言うてる。勉強は面白くない、どうやったら高校いける?」と問いかけてきました。彼女たちが不安や心配、悩み・葛藤を吐き出してくれ、「やれることはいっぱいある」とそこから相談が始まりました。
その後、彼女たちの学校での行動がすぐに改善されたわけではありません。しかしそれまでは、反発と反抗、不信感しか示さなかった態度が徐々に変わっていきました。私たち教員との「信頼の糸」がやっとつながったのです。中学卒業の日まで、反発と甘えの行動を見せる時もありましたが、彼女たちは全員高校に進学していき、高校も卒業しました。
子どもたちは、誰もが、「自分はここにいるよ」「人から認められたい」と思っています。言い換えれば、自分を認めてもらえる仲間や居場所を探しているともいえます。子どもたちの問題行動の背景には、様々な要因が複雑に絡んでいますが、深夜徘徊や喫煙、ひきこもりなど、今の「子どもの問題」は、ひいては今の「大人・社会の問題」であると考えます。子どもたちがほとんどの時間を過ごす家庭や学校において自分の居場所がなく、自分を認めてもらえないとき、その不安感やイライラした気持ちを、いろんな形の「不適応行動」によって自身の危機感のサインを出していると考えます。
子どもの存在を認めるには、ありのままを肯定することが大事であるといわれます。これは決して簡単なことではありません。しかし、子どもは受けとめてもらえた経験をすると、「安心感・安全感」を感じ、自分というものを見つめ、変わっていきます。私は非行防止において、親の愛情に勝るものはないと思っています。そして、教員においても、生徒一人ひとりへの愛情と粘り強いかかわりが肝であると考えます。
地域の方々には、日頃より青少年の健全育成活動にご支援、ご協力いただいております。教育委員会としましても、学校・家庭・地域の皆様と一体となって、子どもたちの豊かな育ちのために、全力で取り組んでまいりますので、よろしくお願いします。
(令和4年12月に発行された近江八幡・竜王補導委員会の情報誌「ほたる39号」に、掲載いただいた拙文を編集したもの。)
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更新日:2023年02月20日